わざのはなし

「主張しない」技術

一つの文字が彫られるまで

お墓に彫られた家名を思い浮かべてみて下さい。その全ての文字がPCのフォントのように全て同じサイズで、一定の間隔で並んでいたら・・・。おそらく貴方は大きな違和感を抱くことでしょう。また、文字の組み合わせによっては、上下左右にずれているように感じられるかもしれません。

文字は何かを表現するために存在します。私たちは「彫る」事で、その「何か」を阻害してはならないと考えています。その文字を見る人が「何か」に集中できるよう、私たちが文字を彫る際には、彫る事自体が主張とならないこと、見る人に違和感を与えないことが求められます。

すなわち、字を彫ることに求められるのは「主張しない」技術。私達はそのように考えながら、日々文字を彫り続けています。

  1. 文字をデザインする

    文字をデザインする

    まずは彫る文字を用意していきます。書家の方に書いてもらうこともありますし、資料などを参考に加工したり、時にはスタッフが筆を執ることもあります。

  2. 彫る文字をコンピュータに取り込み、調整します

    彫る文字を整える

    紙に書いた文字を「彫るための文字」に整えていきます。そのため、一度デジタルデータに変換し、PCで調整をしていきます。対候性や強度などを考慮し、彫る職人と相談をしながら文字の細部を調整します。また、字間やサイズなど全体のバランスを整えていきます。

  3. ゴムシートに印刷し、彫る対象に貼り付けます

    ゴムシートに印刷し、貼り付ける

    デザインデータを実寸大で白抜き文字のように印刷し、ゴムシートを彫る対象に貼り付けていきます。簡単なようですが、傾いたり中心がずれてしまうと取り返しは効きません。

  4. シートをカットしていきます

    シートをカットする

    印刷されたラインを目安に、ゴムシートから彫る部分を抜いていきます。二宮石材では、全ての職人がこの作業を行えます。それはここで最終的な調整を行うためです。引かれたライン通りでは無く、実際に彫るものの上で、彫る事をイメージしながらカットしていきます。

  5. サンドブラスターで彫り進めます

    サンドブラスターで彫る

    縦横2m程度の密閉空間に運び入れ、外から手だけを入れて、ノズルをつかって研磨剤を吹き付けます。
    同じ文字を彫るにも、素材の違いはもちろん、研磨材の混合量や、空気圧の強弱、吹き付けノズルと素材との距離、ノズルの消耗度など、様々な条件を経験に基づいて調整しながら彫り進めていきます。
    さらに、文字の「止め」や「払い」を「彫る深さ」で表現することが出来るのも、コンピュータで制御されるレーザー彫りでは不可能な職人業といえます。

「彫る」ことは、「塗る」や「書く」と同じように表現方法の一つです。私たちは、彫った文字や絵、文様が表わすものこそが主役となるよう、「違和感を持たれない自然さ」を追求してきました。

人間の目は高性能で、微妙な違和感にとても敏感です。彫った文字は永く遺るため、映像として体験とともに記憶されます。私たちの仕事はその体験や記憶を支える事だと考えています。

従ってお客さまから「何も言われないこと」が、私たちが彫った文字に対する最高の評価となります。そこに費やされた技術はとても気付きにくいものかもしれません。機会があれば、彫られた文字を「見る」だけではなく「視て」みて下さい。

字彫りで培った技術を用いた二宮石材の新しいチャレンジとは?

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